2008/07/28

痛みの克服

【太古から現代までの人類の戦い、それは痛みの克服だった。】

今回読んだ本-----------------------------------------------
「痛みの治療」後藤文夫著 中公新書
著者は、麻酔科科学を専攻した、ペインクリニックの専門家です。
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◆まず、全体の感想です。

なるほど、痛みはこうやって抑えられるのか。という感動でした。
ヤナギの成分・アスピリンが効く理由。
モルヒネなどの麻薬が効く理由。
そして、随所で、鎮痛剤が開発されたエピソードなど。
神経をブロックするとは何か、医者はどのように薬を選択するのか、 私には未知の世界をのぞく驚きと感動がありました。

◆太古から現代までの人類の戦い、それは痛みの克服でした。

考えただけでも、麻酔薬が無い頃の、手術、抜歯、傷の手当てなどぞの激痛を想像するとぞっとします。

私たちは、よく、痛みに襲われます。
軽い痛みから、激痛まで。
また、命には別条の無いものから、命にかかわるものまで。

私自身は、小学校の頃からずっと歯痛に悩まされてきました。
あの、独特の痛みは、それこそ夜も眠れませんでした。

また、私の奥様は片頭痛(偏頭痛)持ちで、それが始まると寝込むほどです。
私の父は変形性関節炎で、膝痛、関節痛に悩まされていました。
私の姪は、今恋の胸の痛みに執り付かれています。

痛みは身近に、数多くある現象です。

痛みは苦痛で、日常性かつに支障を来たします。
たとえば、擦り傷、切り傷などの皮膚の障害の痛み、頭痛、偏頭痛(偏頭痛)、歯痛、膝痛、関節痛、腰痛など、命には別状が無くても、つらいものです。
でも、心臓の急激な痛み、ガンによる痛み、頭痛でもくも膜下出血などのショック的な激痛、など、すばやい処置が必要なものまであります。

以下、この本を読んでのメモと、感想です。
■「痛み」の専門診療=ペインクリニック

ペイン=痛み、クリニック=診療、の意味でペインクリニックと呼ばれます。
ペインクリニックは、あらゆる痛みを対象とし、日本では「神経ブロック」に重きを置いた痛みの診療がこのように呼ばれています。

■「神経ブロック」とは

痛みを伝える神経や脊髄の近くに針を刺し、鎮痛剤、主に局所麻酔剤を注入する治療法です。少量の薬で確実に痛みを和らげることが出来ます。
同時に、血管収縮作用を持つ交感神経の働きも抑えることから血液の流れが増し、筋肉の緊張もとれ、「痛みの悪循環」から解放されてこりも痛みも軽くなります。
このような治療には特殊な専門技術が必要なことから麻酔科医が中心となっています。

痛みの治療、そして、痛みの薬の投与に関して、私たち医者でないものには、手が出ない世界です。

しかし、痛みがどんなものなのか、知っていれば、薬を買うとき、薬を処方してもらう時、或いは不幸にして手術などを行わなければならないとき、更には、最近見かける痛み抑制の健康食品を購入するときなど、全体が見渡せて安心です。

■痛みのメカニズム

◆皮膚などの痛み
皮膚には神経線維が網の目のように張り巡らされています。
皮膚に損傷などを起こすとこの神経線維が傷つけられたり、炎症を起こすします。
これが大脳に伝達されて痛みを感じます。

◆頭
頭は痛みを感じる仕組みが複雑なようです。
頭の皮膚と頭蓋骨の表面には三叉神経と脊椎神経が分布していて、痛み刺激を大脳に伝えます。
頭蓋骨の下には脳をおおう膜、くも膜と硬膜があり、その伸び縮みで痛みが起こります。
脳動脈の瘤の破裂によるくも膜下出血で、激烈な痛みが起こるのはこの機構です。

◆内臓の痛み
内臓の痛みには自律神経が関係しています。
心臓、血管、胃、腸などの動きを調節するのが自律神経系で、交感神経・副交感神経があり、内蔵などの傷みは主に交感神経を通じて脳に伝えられます。

痛みにはいろいろな種類があり、その治療に専門医でも難渋することが有るようです。
ただ、痛みのほとんどの治療は、消炎鎮痛剤とモルヒネが有効です。

■消炎鎮痛剤の代表アスピリンはヤナギの成分から生まれた

古代ギリシャ時代、医学の父と呼ばれるヒポクラテスは、セイヨウシロヤナギの樹皮を痛みと発熱の治療に使っています。
19世紀にヨーロッパの研究者はヤナギの樹皮の有効成分を抽出し、その主成分がサリチル酸であることを突き止めています。

サリチル酸は、慢性関節リウマチ、風邪、歯の痛み、ジフテリア、梅毒、コレラに至るまであらゆる病気に使われていました。
しかし、この薬で胃をやられ、吐き気にくるしむという副作用も多く発生していました。
このサリチル酸をアセル化し、純度を高めて、副作用を抑えるように合成したのが、ドイツの製薬メーカー・バイエル社のフェリックス・ホフマンでした。
のち、これが商品名「アスピリン」として1899年に発売され、爆発的なヒット商品となります。

これと同じような薬の開発競争が世界的に行われ、1961年英国で「イブプロフェン」が発売され、アメリカでは熾烈な販売合戦が繰り広げられたそうです。

■アスピリンはなぜ効くのか?

簡略化して言えば、痛み物質PG(プロスタグランジン)の合成を行う酵素・COX (シクロオキシゲナーゼ)の活性を押さえて、痛みを和らげます。
同じような作用を持つが作用機序が異なるものに腎皮質から放出されるステロイドホルモンがあり、これも合成されて鎮痛剤として使用されているものがあります。
アスピリンなどは、これらと区別するために、「非ステロイド系消炎鎮痛剤」と呼ばれています。

そのご、さらに研究がなされ、一層の鎮痛効果と副作用を押さえた、ヒステロイド系消炎鎮痛剤の開発が進められました。

■モルヒネとアルカロイドとは

消炎鎮痛剤で押さえきれない激しい痛みに使われる薬に「モルヒネ」があります。
モルヒネはケシの実から取れます。

ケシの実が痛みの治療に使われたのは古代メソポタミア、紀元前1500年頃まで遡るそうです。
英語でケシの実から採れる鎮痛剤を「オピウム」、中国語で「阿片」といいます。
このアヘンから、アルカロイドを抽出したのが、ドイツの薬剤師・ゼルチュルナーで、1806年のことです。

アルカロイドは分子内に窒素を含む塩基性の物質で植物性、動物性があり、その総称です。
アルカロイドは多数の種類があり、主に植物から採るものが多いようです。

アルカロイドは神経ホルモンそっくりであるため、神経線維の末端部に入り込神経の作用に働きかけるものです。
モルヒネは、このアルカロイドの一つで、その作用はほんの少量舐めるだけで楽しい気分が起こったことから、夢の神「モルフェウス」にちなんで「モルヒネ」と名づけられたそうです。

このモルヒネは各種アルカロイドの中でも鎮痛作用が強く、200年近く経たいまでも痛み止めの主役を務めています。

このモルヒネをアセチル化して一層強力な鎮痛剤にしたのが「ヘロイン」で、19 世紀末ドイツバイエル社が発売したものです。
このヘロインは鎮痛作用が協力である以上に陶酔感が強く、麻薬中毒患者が最もほしがる薬物となり、新たな問題を引き起こしました。

現在、アヘン、モルヒネ、ヘロインなどは「麻薬」に指定されており、厳重な管理と医者により治療目的で使用する以外は禁じられています。

■生体内の鎮痛物質「オピオイドペプチド」

1970年初頭、脳の中にモルヒネが結合して鎮痛作用を発揮する特殊な受容体が見つかりました。
さらにこの受容体に結合して痛みを抑える物質が脳と脊髄から発見され、「オピオイドペプチド」と名づけられました。
これを化学合成化し製剤化したのが「フェンタニル」で米国で開発されたものです。
モルヒネの約100倍の鎮痛効果があるといいます。
手術の麻酔、無痛分娩、がんの痛みの治療などに使われています。

■21世紀の最重要課題・痛みの治療

痛みは本人にしか分からず、また精神作用も大きく働き、人によって訴え方が違うので特に慢性の痛みの治療は難しいといいます。
さらに、痛みの研究を妨げているのに「痛みの治療は、病気を治す処置ではない」として軽んじる医者側の責任と、「痛みを我慢することが美徳」とする社会習慣があります。
ただ、ガンなどでも痛みなども抑えることで、QOLの向上があり、それが生きる意欲二つながり、結果として免疫が高まるなど生存率が高まっている事実もあります。

痛みの治療は有史以前から人類最大の命題でした。
医師ヒポクラテスは「神の恵みは、痛みを治める業である」と述べています。
痛みの研究は21世紀における医療の最重要課題として引き継いで行かなくてはなりません。
< あとがきより>